「給付金が廃止されると聞いたが、いつからなのか」。経営会議でこう聞かれて、答えに詰まる人事担当者は少なくありません。
先にお伝えします。給付率の引き下げは2025年4月に施行済みで、廃止の時期は2026年10月時点で確定していないのが現状です。しかも給付金は雇用保険から本人に支払われるもので、会社の支出ではありません。
改正の中身と経過措置、支給額の計算、企業が見直す点、使える助成金を順に整理します。自社の再雇用者に当てはめて、人件費と賃金設計の見直しにお役立てください。
高年齢雇用継続給付金の廃止はいつから?2025年の改正内容
結論は2つあります。2025年4月に給付率が下がったことと、完全廃止の時期がまだ決まっていないことです。この2つを混同すると、経営会議で数字を誤ります。
改正の内容は、次の4つです。
- 2025年4月から給付率が最大15%から10%に引き下げ
- 2025年3月31日以前に60歳になった人は経過措置の対象
- 完全廃止の時期と「2030年廃止説」の現状
- 縮小の背景にある高齢者雇用環境の変化
引き下げの中身から順に確認します。
2025年4月から給付率が最大15%から10%に引き下げ
2025年4月1日以降に60歳になる人から、給付率の上限が賃金の15%から10%に下がりました。厚生労働省のページでは、60歳に達した日が2025年3月31日以前の人は「各月に支払われた賃金の15%」を限度としています。2025年4月1日以降の人は「同10%」です。
下がったのは率であり、制度そのものは続いています。2026年度も、新ルールがそのまま続いています。
| 旧ルール | 新ルール | |
|---|---|---|
| 適用される人 | 60歳到達日が2025年3月31日以前 | 60歳到達日が2025年4月1日以降 |
| 給付率の上限 | 賃金の15% | 賃金の10% |
参考:厚生労働省「高年齢雇用継続給付」※2026年10月時点
2025年3月31日以前に60歳になった人は経過措置の対象
新旧の境目は、60歳に達した日です。2025年3月31日以前に60歳になった人は、従来の最大15%のまま65歳になるまで受け取れます。2025年4月1日以降に60歳になった人は、最大10%からのスタートです。
雇用保険の被保険者期間が60歳の時点で5年に満たない人は、5年を満たした日が基準です。厚生労働省のページに「経過措置」という名前の独立した項目はありません。この基準日による区分が、実質的な経過措置にあたります。
社内では、旧ルールの人と新ルールの人が同じ職場で働く期間が続く見通しです。再雇用者の名簿は、60歳に達した日で仕分けておくと試算が進めやすくなります。
完全廃止の時期と「2030年廃止説」の現状
廃止を決めた文書は、確認できていません。雇用保険部会の報告書(2019年12月25日)は、令和7年度から新たに60歳になる人の給付率を半分程度に縮小するのが適当としました。そのうえで、給付の在り方については「廃止も含め、更に検討を行うべき」と書いています。
2023年12月の部会資料でも、令和7年4月からの引き下げの施行状況を見つつ「廃止も含め、引き続き検討する」ことが論点でした。一方、解説記事には「2030年に廃止される予定」と書くものがあります。ただし、根拠となる法令や報告書は示されていません。
筆者が確認した部会資料にも、年限の記載はありませんでした。現時点では「検討が続いている」が正確な表現です。数字が動く可能性は残るため、経営会議の資料には「2026年10月時点」と日付を添えておきましょう。
縮小の背景にある高齢者雇用環境の変化
縮小の理由は、65歳までの雇用が企業に定着したことと、待遇の公平性を求める流れです。2019年12月の報告書は、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保が求められていくことを挙げました。あわせて、65歳未満の継続雇用制度の経過措置が終わる令和7年度を区切りに据えています。
2022年6月時点で、21人以上の企業の99.9%(235,620社)が、65歳までの雇用確保措置を実施しています(厚生労働省調査)。65歳までの働く場所は、すでに整っています。
もう一点あります。報告書は、この給付が高年齢労働者の継続雇用時の処遇決定に影響を与えている実情にも触れました。給付を前提に賃金を決める会社が多い、という指摘です。
高年齢雇用継続給付金を受け取るための基本条件
給付を受けるには、年齢・加入期間・賃金の3つを満たす必要があります。1つでも欠けると支給されません。
- 60歳以上65歳未満の雇用保険の一般被保険者であること
- 雇用保険の被保険者期間が5年以上あること
- 60歳到達時などと比較して賃金が75%未満に低下していること
年齢の条件から順に見ていきます。
60歳以上65歳未満の雇用保険の一般被保険者であること
対象は、60歳以上65歳未満の雇用保険の一般被保険者です。65歳に達すると支給は終わります。
雇用保険に加入していない働き方では、そもそも対象になりません。再雇用で労働時間を短くする場合は、雇用保険の加入条件を割り込まないかを先に確認しておきましょう。
雇用保険の被保険者期間が5年以上あること
雇用保険の被保険者であった期間が、5年以上必要です。60歳の時点で5年に満たない人は、5年を満たした日から対象に入ります。
勤続の短い中途採用者は、この条件で対象外になりやすい傾向があります。再雇用の面談前に、雇用保険の加入記録を調べておくと安心です。
60歳到達時などと比較して賃金が75%未満に低下していること
60歳以後の毎月の賃金が、60歳時点の賃金の75%未満になっていることが要件です。75%以上のままなら、給付は1円も出ません。
賃金を下げすぎない会社は、そもそも給付の対象外です。ここが賃金設計の分かれ目です。
高年齢雇用継続給付金はいくらもらえる?2026年の計算方法
計算は3段階で進みます。賃金の割合を出し、支給率を当てはめ、上限に収まるかを確かめます。
- 60歳到達時の賃金月額と賃金低下率を計算する
- 新旧制度の支給率を早見表で確認する
- 支給限度額を踏まえて給付額をシミュレーションする
最初のステップは、賃金の割合を出すことです。
60歳到達時の賃金月額と賃金低下率を計算する
最初の作業は、60歳時点の賃金を100%として、いまの賃金が何%にあたるかを出すことです。60歳時点で月50万円だった人が、再雇用後に月30万円になった場合を考えます。
30万円÷50万円で、割合は60%。低下率でいえば40%です。
「低下率」と「賃金の割合」は、逆向きの数字です。社内資料は、60歳時点の何%かで統一すると混乱しません。
新旧制度の支給率を早見表で確認する
支給率は、賃金の割合で決まります。
| 60歳時点を100%とした賃金の割合 | 旧ルール(2025年3月31日以前に60歳) | 新ルール(2025年4月1日以降に60歳) |
|---|---|---|
| 61%以下 | 賃金の15% | 賃金の10% |
| 61%超64%以下 | 逓減 | 賃金の10% |
| 64%超75%未満 | 逓減 | 逓減 |
| 75%以上 | 支給なし | 支給なし |
参考:厚生労働省「高年齢雇用継続給付」、雇用保険部会資料(2023年12月11日)
賃金と給付の合計が60歳時賃金の一定割合を超えると、率は逓減します。旧ルールは70.15%、新ルールは70.4%が境目です。合計が75%に達する手前で、給付はゼロになる仕組みです。
支給限度額を踏まえて給付額をシミュレーションする
給付額の基本は、「その月の賃金×支給率」の掛け算。上限にも決まりがあります。
支給対象月の賃金が支給限度額以上なら、給付は出ません。賃金と給付の合計が限度額を超えるときは、限度額から賃金を引いた額に抑えられます。
支給限度額は毎年8月に改定され、2026年8月1日から397,369円になりました(改定前は386,922円)。
計算例です。60歳時点の賃金50万円、再雇用後30万円(割合60%)の場合を見てみます。
- 新ルール:30万円×10%=月3万円
- 旧ルール:30万円×15%=月4.5万円
月1.5万円、年にして18万円の差が出ます。前提の金額は仮定ですので、実額は賃金台帳でご確認ください。
高年齢雇用継続給付金の申請方法
申請の主役は、事業主です。ハローワークの案内も、事業主向けの手続きとして書かれています。
手続きは、次の2つに分かれます。
- 申請の流れと必要書類
- 申請期限と提出先
初回の流れから確認します。
申請の流れと必要書類
初回は、事業所を管轄するハローワークに提出します。書類は、「雇用保険被保険者六十歳到達時賃金証明書」と、「高年齢雇用継続給付受給資格確認票・(初回)高年齢雇用継続給付支給申請書」が中心です。添付書類は、リーフレットを参照してください。
2回目以降は、「高年齢雇用継続給付支給申請書」を提出します。電子申請にも対応しています。
申請期限と提出先
初回は、最初に支給を受けようとする支給対象月の初日から4か月以内が申請の期限です。2回目以降は、管轄のハローワークが指定する支給申請月の申請日に出します。指定の月は、ハローワークごとに異なります。
期限の細かな扱いは、管轄のハローワークで確認しましょう。社内の台帳に、対象者ごとの申請月を書き込んでおくと漏れを防げます。
高年齢雇用継続給付金を受け取る際の注意点
見落としやすいのは、支給期間、再就職した場合の扱い、年金との調整の3点です。
- 給付金を受け取れる期間は原則65歳まで
- 退職後に再就職した場合の高年齢再就職給付金
- 老齢厚生年金との併給による年金の減額
支給期間から順に見ていきます。
給付金を受け取れる期間は原則65歳まで
支給は、65歳に達するまで続きます。対象は60歳以上65歳未満に限られるため、65歳以降の再雇用は、この給付の対象外です。65歳を超えて働いてもらう計画の会社は、給付の終わりを賃金設計に織り込んでおく必要があります。
退職後に再就職した場合の高年齢再就職給付金
60歳以後に退職して基本手当を受け、その後に再就職した人には、高年齢再就職給付金があります。要件は次の4つです。
- 基本手当の被保険者期間が5年以上あること
- 再就職した日の前日の基本手当の支給残日数が100日以上あること
- 再就職後の賃金が、基準となった賃金日額の30倍の75%未満であること
- 安定した職業に就いて被保険者となったこと
支給期間は、残日数が200日以上なら2年間、100日以上なら1年間です。再就職手当との併給はできません。どちらか一方を選びます。
老齢厚生年金との併給による年金の減額
特別支給の老齢厚生年金など、65歳になるまでの老齢年金を受けている人は、この給付を受けると年金の一部が追加で止まります。日本年金機構によると、停止される額の上限は、標準報酬月額の最大6%(旧ルール)または最大4%(新ルール)です。
旧ルールは、60歳到達日が2025年4月1日より前の人と、2025年4月1日より前に再就職した人。それ以外は新ルールです。対象は、厚生年金の被保険者の方です。本人の年金額への影響は、年金事務所で確認してください。
給付金の縮小・廃止に向けて企業が備えること
縮小の影響は、会社の支出ではなく、再雇用者の手取りと賃金設計に出ます。この点を先に整理しておきましょう。
企業が備えることは、次の3つです。
- 再雇用者の手取りと賃金設計への影響
- 給付金を前提とした賃金設定の見直し
- 65歳超雇用推進助成金など代替制度の活用
手取りへの影響から確認します。
再雇用者の手取りと賃金設計への影響
給付金は、雇用保険から本人に支給されます。会社が負担するものではありません。だから、率が下がっても、会社の人件費は直接増えない構造です。変わるのは、本人の手取りです。
前出の例なら、旧ルールと新ルールで月1.5万円の差が出ます。新ルールの再雇用者が25名いて同じ条件なら、年で450万円分を本人が受け取れなくなる計算です(仮定の試算)。
厚生労働省の資料によると、給付を受けた人の1人あたりの平均給付額は、2022年度で月27,371円でした。手取りの減少は、処遇への不満や離職につながりかねません。報告書が指摘したとおり、この給付は継続雇用時の処遇決定に影響してきました。
給付金を前提とした賃金設定の見直し
給付を見込んで再雇用の賃金を決めている会社は、設計の前提が変わります。見直しの軸は2つです。賃金の割合を引き上げて給付に頼らない形にするか、役割や成果に応じて賃金を決め直すか。
75%以上にすれば給付は出なくなりますが、その分は会社が賃金として払います。報告書は、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保を理由に、縮小を打ち出しました。
正社員との待遇差に合理的な説明ができるかも、見直しの視点です。具体的な賃金の決め方は、会社の規模や職種で変わります。社会保険労務士への相談をおすすめします。
65歳超雇用推進助成金など代替制度の活用
給付金の代わりに使えるのが、65歳超雇用推進助成金の「65歳超継続雇用促進コース」です。65歳以上への定年引き上げ、定年の廃止、66歳以上の継続雇用制度の導入などを実施した事業主が対象に含まれます。
| 実施した措置 | 支給額(対象被保険者数による) |
|---|---|
| 65歳への定年引上げ | 15万〜30万円 |
| 定年の定めの廃止 | 60万〜240万円 |
| 66〜69歳の継続雇用制度(希望者全員) | 22万〜90万円 |
| 70歳以上の継続雇用制度(希望者全員) | 40万〜130万円 |
参考:独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構「65歳超継続雇用促進コース」※2026年10月時点
申請先は、機構の都道府県支部。期限は、制度を実施した月の翌月から4か月以内です。
令和8年4月8日以降の申請には、令和8年度の制度が適用されます。給付金の穴埋めではなく、制度を整えた会社への助成である点にご注意ください。
まとめ|縮小は施行済み。経過措置の対象と支給額を確認して人件費計画に反映する
2025年4月の引き下げは施行済みで、廃止の時期は確定していません。まず、再雇用者を60歳に達した日で仕分け、旧ルールと新ルールの人数を出します。次に、賃金の割合から給付額を試算し、本人の手取りの変化を数字にします。
助成金は、申請期限の4か月以内を逆算して準備を始めましょう。この3点が揃えば、経営会議には「会社の支出は増えず、手取りが年間いくら動くか」という形で報告できます。廃止の動きがあれば、厚生労働省の雇用保険部会の資料で確認しておいてください。
