「働いていると、年金は減らされるの?」
「65万円って、いったい何の金額?」
このような疑問をお持ちではありませんか。
先にお伝えすると、2026年度(令和8年度)の在職老齢年金の支給停止調整額は65万円です(2026年10月時点)。年金(老齢厚生年金)の月額と、給与・賞与を月額にならした額の合計が65万円以下なら、年金は全額支給されます。ただし、51万円や62万円といった数字も出回っていて、どれが自分に関係するのか迷う人は少なくありません。
そこで本記事では、以下の内容について詳しく解説します。
- 2026年度の基準額と年度ごとの推移
- 支給停止額の計算方法と早見表
- 基準額を踏まえた3つの働き方
- 支給停止や解除に関するよくある質問
ぜひ参考にしてみてください。
2026年度(令和8年度)の在職老齢年金の支給停止調整額は65万円|推移も確認
在職老齢年金とは、60歳以降に厚生年金に加入して働きながら受ける、老齢厚生年金のことです。
2026年度の支給停止調整額は65万円です。給与と年金の合計がこの基準額を超えると、年金の一部または全部が止まります。この基準は、厚生年金に加入して働く60歳以上の老齢厚生年金の受給者に共通で、60歳代前半か65歳以上かによって金額は変わりません。
注意したいのは、65万円は給与の上限ではなく、年金と給与の「合計」であることです。65万円を超えた分の半分が年金から差し引かれます。
なお、令和8年3月までの基準額は51万円でした。令和8年4月に65万円へ引き上げられ、14万円の上積みです。65万円は令和8年度の額で、賃金の変動に応じて毎年度改定されます。
令和9年度以降の額は、現時点で発表されていません。引き上げの影響は大きく、年金と給与の合計が51万円超65万円以下の人は、令和8年4月から停止の対象外になりました。
| 年度 | 支給停止調整額 |
|---|---|
| 令和4年度(2022年度) | 47万円 |
| 令和5年度 | 48万円 |
| 令和6年度 | 50万円 |
| 令和7年度 | 51万円 |
| 令和8年度(2026年度) | 65万円 |
参考:厚生労働省「年金額改定について」、日本年金機構(2026年10月時点)。
引き上げの効果は、日本年金機構の計算例で確かめられます。基本月額10万円、標準報酬月額36万円、標準賞与額120万円の人は、総報酬月額相当額が46万円になり、合計は56万円です。
この場合、改正前の51万円基準では2.5万円が停止され、支給額は7.5万円でした。65万円基準では合計が基準を超えないため、10万円が全額支給されます。つまり、基準額が65万円に上がった2026年度は、働きながらでも年金が止まりにくくなった年度です。
在職老齢年金の支給停止額の計算方法|確認する3つの金額
支給停止額は、年金の月額と、給与・賞与から出した月額を足して、65万円と比べて決まります。合計が65万円以下なら全額支給で、超えた場合の年金支給月額は、次の式で求めます。
年金支給月額=基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-65万円)÷2
超えた分の半分が、年金から差し引かれる仕組みです。日本年金機構の例にも同じ計算が載っていて、合計が68万円なら基準を3万円超えるため、停止されるのはその半分の1.5万円です。
式の結果がマイナスになると、老齢厚生年金は全額停止となり、加給年金額も支給されません。一方、老齢基礎年金と経過的加算額は調整の対象外で、全額が支給されます。
総報酬月額相当額とは…標準報酬月額に、「その月以前1年間の標準賞与額の合計÷12」を足した額です。
計算の手順は3つです。基本月額を出し、総報酬月額相当額を出し、足して65万円と比べます。2つの例で試してみましょう。
基本月額15万円、標準報酬月額38万円、標準賞与額の年間合計60万円の人は、総報酬月額相当額が38万円+60万円÷12で43万円です。合計は58万円で、65万円以下のため、停止はなく、年金は全額支給されます。
標準報酬月額50万円、標準賞与額の年間合計120万円なら、総報酬月額相当額は60万円です。基本月額15万円との合計は75万円で、基準を10万円超えるため、停止額はその半分の5万円です。
計算に使う金額は、次の3つに分かれます。
- 老齢厚生年金の基本月額
- 給与に対応する標準報酬月額
- 過去1年間の標準賞与額の12分の1
それぞれの意味と、確認する場所を見ていきましょう。
老齢厚生年金の基本月額
基本月額とは…加給年金額を除いた老齢厚生年金(報酬比例部分)の年額を、12で割った月額です。
共済組合などの老齢厚生年金もある人は、その合計を12で割ります。老齢基礎年金は含みません。自分の額は、年金額改定通知書や年金振込通知書、ねんきんネットで確認できる老齢厚生年金の年額から割り出せます。
たとえば年額が180万円なら、基本月額は15万円です。加給年金額が付いている人は、その分を引いて計算しましょう。基本月額は、計算のスタート地点になる金額です。
給与に対応する標準報酬月額
標準報酬月額とは…毎月の給与を区切りのよい幅に当てはめた額で、厚生年金の保険料や年金額の計算に使われます。
税金などを引く前の給与が基準で、実際に手元に入る額ではありません。70歳以上の人は、標準報酬月額に相当する額を使います。自分の標準報酬月額は、勤務先の給与担当に聞くのが確実です。
手取りではなく、税金などを引く前の給与がもとになる点を押さえておきましょう。
過去1年間の標準賞与額の12分の1
賞与は、その月以前1年間の標準賞与額の合計を12で割った額が加算されます。月給が低めでも、賞与が大きければ総報酬月額相当額は上がるため、見落としやすいポイントです。賞与の額は、税金などを引く前の金額で数えます。
たとえば、標準賞与額の合計が120万円なら、月額換算は10万円です。月給36万円の人なら、これをそのまま足して、総報酬月額相当額は46万円に上がります。
支給停止額が変わる時期は、総報酬月額相当額が変わった月か、退職日の翌月です。賞与が出た月から1年間は、その賞与が12分の1ずつ計算に入り続けます。
【早見表】在職老齢年金の支給停止額をシミュレーション
年金の月額と総報酬月額相当額を当てはめると、毎月の支給停止額が分かります。次の表は、式で算出した目安です(単位は万円、月額)。
| 総報酬月額相当額 | 基本月額10万円 | 基本月額15万円 | 基本月額20万円 |
|---|---|---|---|
| 40万円 | 0 | 0 | 0 |
| 50万円 | 0 | 0 | 2.5 |
| 60万円 | 2.5 | 5 | 7.5 |
| 70万円 | 7.5 | 10 | 12.5 |
| 80万円 | 10(全額停止) | 15(全額停止) | 17.5 |
参考:日本年金機構の計算式をもとに筆者が試算(2026年10月時点)。
自分の数字に近い行を探してみてください。実際の支給停止額は、日本年金機構の「在職老齢年金早見表」でも確認できます。
表の読み方として、境目の目安も押さえておきましょう。停止が始まるのは、基本月額と総報酬月額相当額の合計が65万円を超えたときです。年金が全額止まるのは、総報酬月額相当額が「65万円+基本月額」以上になったときです(単位は万円)。
| 基本月額 | 停止が始まる総報酬月額相当額 | 全額停止になる総報酬月額相当額 |
|---|---|---|
| 10 | 55超 | 75以上 |
| 15 | 50超 | 80以上 |
| 20 | 45超 | 85以上 |
参考:日本年金機構の計算式をもとに筆者が試算(2026年10月時点)。
年金が多い人ほど、低い給与から停止が始まります。一方で、全額止まる線は、年金が多い人ほど高くなります。基本月額15万円を例に、3つの場合を計算してみましょう。
- 総報酬月額相当額50万円・老齢厚生年金15万円の場合
- 総報酬月額相当額60万円・老齢厚生年金15万円の場合
- 総報酬月額相当額70万円・老齢厚生年金15万円の場合
基本月額は、どれも15万円です。
総報酬月額相当額50万円・老齢厚生年金15万円の場合
合計は65万円で、基準額と同額のため、超えていません。停止はなく、年金15万円は全額が支給されます。標準報酬月額が38万円なら、賞与が年間144万円までは、総報酬月額相当額が50万円に収まります。
年金額が15万円前後なら、令和8年度は停止の対象外になる計算です。令和7年度までの51万円基準なら、同じ条件でも合計が基準を超えていました。同じ働き方でも、基準額の引き上げで結果が変わる典型例です。
総報酬月額相当額60万円・老齢厚生年金15万円の場合
合計は75万円で、基準額を10万円上回ります。停止額はその半分の5万円です。
年金支給月額は15万円-5万円で10万円です。給与60万円と年金10万円で、合計は70万円となり、50万円の場合の65万円より5万円多くなります。給与が増えても、年金と給与の合計は減りません。
総報酬月額相当額70万円・老齢厚生年金15万円の場合
合計は85万円で、基準額を20万円上回り、停止額は10万円です。年金支給月額は15万円-10万円で、5万円。もとの3分の1にまで減ります。
給与70万円と年金5万円で、合計は75万円です。年金が全額止まるのは、総報酬月額相当額が80万円以上になった場合で、式の結果が0を下回るためです。
3つの場合を並べると、給与が10万円上がるごとに、年金は5万円ずつ減っています。それでも年金と給与の合計は、65万円、70万円、75万円と増え続けます(税金と社会保険料を除く)。超過分の半分しか引かれない仕組みなので、給与が上がって合計が下がる逆転は起きません。
同じ3つの場合を、令和7年度までの51万円基準で計算すると、差がはっきりします(基本月額15万円、単位は万円)。
| 総報酬月額相当額 | 51万円基準の年金支給月額 | 65万円基準の年金支給月額 | 増える額 |
|---|---|---|---|
| 50万円 | 8 | 15 | 7 |
| 60万円 | 3 | 10 | 7 |
| 70万円 | 0(全額停止) | 5 | 5 |
参考:日本年金機構の計算式をもとに筆者が試算(2026年10月時点)。
在職老齢年金の支給停止調整額を踏まえた3つの働き方
働き方は、給与と年金の組み合わせを選ぶことでもあります。判断に使う軸は2つ、年金と給与の合計と、将来の年金の増え方です。
前者は表で読めます。後者は、在職定時改定や退職時の再計算で変わります。
65万円の線を基準に、3つの選択肢を比べてみましょう。基本月額15万円の場合を並べると、次のとおりです(単位は万円、月額。税金と社会保険料は含みません)。
| 働き方 | 総報酬月額相当額 | 年金支給月額 | 年金+給与 |
|---|---|---|---|
| 給与を維持 | 60 | 10 | 70 |
| 給与を調整(65万円以下に) | 50 | 15 | 65 |
| 給与をさらに調整 | 40 | 15 | 55 |
| 退職 | 0 | 15 | 15 |
参考:日本年金機構の計算式をもとに筆者が試算(2026年10月時点)。
選べる働き方は、次の3つです。
- 給与を維持して働き続ける
- 勤務日数・時間を減らして給与を調整する
- 退職して年金中心の生活に切り替える
年金と給与の合計がどう変わるかを、順に比べます。
給与を維持して働き続ける
年金と給与の合計が65万円以下なら、給与を保ったまま年金は全額もらえます。超えても止まるのは超過分の半分で、合計が減ることはありません。
給与を上げて合計が下がる場面もありません。ただし、70歳未満なら保険料の負担は別に残ります。
在職定時改定とは…毎年9月1日の時点で厚生年金の被保険者である65歳以上70歳未満の人の年金額を、翌月の10月分から見直す仕組みです。
働いた期間の分が、年金額に積み上がります。70歳以降も、厚生年金の適用事業所で働けば在職老齢年金の仕組みは続きますが、保険料の負担はありません。70歳未満で厚生年金に加入している間は、給与から保険料が引かれます。
手取りで比べるなら、保険料と税金を引いたあとの額を並べましょう。上の表の数字は、引く前の目安です。
勤務日数・時間を減らして給与を調整する
給与を下げれば、支給停止額は小さくなります。ただし、減るのは下げた額の半分だけです。給与を1万円下げても、停止額が減るのは5千円にとどまり、年金と給与の合計は5千円目減りします。
基本月額15万円で総報酬月額相当額を60万円から50万円に下げると、停止は5万円分なくなる計算です。一方で、給与は10万円減るため、合計は70万円から65万円へ下がります。半分だけ戻る計算です。
停止をなくすことだけが目的なら、損になりやすい選択です。合計が65万円以下に収まる水準まで下げて初めて、年金を満額で受け取れます。
そこから先は、給与を下げた分がそのまま合計の減少です。50万円を40万円に下げれば、合計は65万円から55万円です。
賞与の月額換算も総報酬月額相当額に入るため、月給だけを見て調整すると見積もりがずれます。賞与を減らす交渉をしても、効果が出るのは支給のあとです。給与の下げ幅を決める前に、直近1年の賞与をすべて足しておきましょう。
退職して年金中心の生活に切り替える
厚生年金に加入せずに退職して1カ月を経過すると、退職した翌月分の年金額から見直されます。在職中に止まっていた分が解除され、老齢厚生年金は全額支給です。退職時には、直近の在職定時改定以降の加入期間も加えて、年金額が再計算されます。
退職から1カ月以内に再就職して厚生年金に加入した場合は、再計算されません。転職でも同じ扱いです。退職後に再び働く場合も、厚生年金に加入して働く間は、在職老齢年金の判定の対象になるため、注意が必要です。
ただし、年金が満額になっても、給与はなくなります。基本月額15万円で給与60万円の場合、在職中の合計は70万円ですが、退職後は年金15万円が中心です。止まっていた5万円が戻るより、給与が消える影響のほうがはるかに大きいのが実情です。
退職後は、年金だけで暮らすのか、別の収入を組み合わせるのかで、必要な月額が変わります。住宅ローンの返済や家族への支援が残っているなら、年金の満額で足りるかどうかを、退職を決める前に確かめておきましょう。
在職老齢年金の支給停止調整額に関するよくある質問
支給停止の対象や解除の時期など、判断に迷いやすい点を取り上げます。
よくある質問は、次の5つです。
- 老齢基礎年金も支給停止になる?
- 支給停止された年金は後から受け取れる?
- 退職・減収した場合はいつから支給停止が解除される?
- 60〜64歳でも支給停止調整額は同じ?
- 70歳以上でも在職老齢年金は支給停止される?
気になる項目から読んでも問題ありません。
老齢基礎年金も支給停止になる?
いいえ、対象外です。老齢基礎年金と経過的加算額は、在職老齢年金の調整の対象外で、全額が支給されます。
停止の対象は老齢厚生年金(報酬比例部分)だけで、計算に使う基本月額にも老齢基礎年金は含みません。老齢厚生年金が全額止まる場合は、加給年金額の支給も止まります。
支給停止された年金は後から受け取れる?
停止された分は、その月の年金としては支給されない部分として扱われます。後から支給するという案内は、日本年金機構や厚生労働省の資料では見かけません。繰下げ受給の場合も、在職老齢年金で止まった額は増額の対象になりません。
65歳以後に厚生年金に加入していた期間や、70歳以後に適用事業所で勤務していた期間が該当します。個別の扱いは、年金事務所に聞いておくと安心です。
退職・減収した場合はいつから支給停止が解除される?
退職した場合は、厚生年金に加入せずに1カ月を経過したとき、退職した翌月分の年金額から見直されます。1カ月以内に再就職して厚生年金に加入すると、見直しは行われません。
減収した場合は、総報酬月額相当額が変わった月から、支給停止額が変わります。手続きの要否は、年金事務所で確かめておくと安心です。
60〜64歳でも支給停止調整額は同じ?
同じです。令和2年の法改正で、60歳代前半の基準(旧28万円)が65歳以上と同じ基準にそろいました。令和4年度は47万円で、令和8年度の65万円は、60歳以上の老齢厚生年金の受給者が対象です。
令和4年3月以前の65歳未満の年金は、計算方法が異なっていましたが、現在は使いません。64歳の人が65歳になる場合も同じで、65歳の誕生日を境に判定の線が動くことはなく、変わるのは在職定時改定の対象になる点です。
70歳以上でも在職老齢年金は支給停止される?
されます。70歳以降も厚生年金の適用事業所で働いていれば、被保険者でなくても、在職による支給停止の対象です。基準額は65万円で、計算には標準報酬月額・標準賞与額に相当する額を使います。
70歳以上は保険料の負担がありません。70歳に到達した時点で被保険者の資格を失い、それまでの加入期間を反映して年金額が再計算され、改定は70歳到達の翌月分からです。
毎年10月に年金額が見直される在職定時改定は、65歳以上70歳未満の人が対象です。70歳以降は、この再計算がひとつの区切りの役割を担います。
まとめ|2026年度の支給停止調整額65万円を基準に年金と給与の合計を確認しよう
2026年度の支給停止調整額は65万円です。基本月額と総報酬月額相当額の合計がこれを超えた分の半分が、年金から止まります。総報酬月額相当額には、賞与の月額換算も入ります。
老齢基礎年金は対象外です。基準額は51万円から65万円に上がりました。基本月額15万円、総報酬月額相当額60万円の人なら、年金支給月額は3万円から10万円へ増えます。
給与を下げても、年金が戻るのは下げた額の半分にとどまります。年金は月額、給与は賞与込みの月額と、単位をそろえて比べるのがコツです。
判定は3ステップです。年金額改定通知書やねんきんネットで基本月額を確かめ、給与と賞与から総報酬月額相当額を出し、65万円と比べましょう。分からない点は、年金事務所に聞いておくと安心です。
