「退職金は税金でかなり持っていかれる」「自分の場合は、いくら引かれるのか」。そんな不安を抱えていませんか。
先に答えを書きます。退職金が「退職所得控除額」以下なら、原則として所得税も住民税もかかりません。
勤続35年なら、その上限は1,850万円です。上限を超えても、超えた部分の半分にしか課税されません。
ただし、落とし穴があります。非課税になる金額に収まっていても、手続きを一つ忘れると税金が引かれてしまいます。本記事では、勤続年数別の非課税額、税額の計算手順、受け取り方による税金の違いを解説します。
iDeCoなど複数の退職金を受け取るときの注意点や、損をしないための手続きも順に見ていきます。まず、自分の勤続年数から控除額を確かめてください。
退職金に税金がかからないのはいくらまで?勤続年数別の非課税額
非課税になる上限は、勤続年数ごとに決まる退職所得控除額です。10年、20年、35年の3つの区切りで金額を並べます(2026年10月時点の国税庁の記載に基づきます)。
区切りは、次の3つです。
- 勤続10年:退職金400万円までなら原則非課税
- 勤続20年:退職金800万円までなら原則非課税
- 勤続35年:退職金1,850万円までなら原則非課税
それぞれの上限額を順に見ていきます。
勤続10年:退職金400万円までなら原則非課税
退職金に税金がかからないのは、退職金が退職所得控除額以下のときです。勤続20年以下の控除額は、40万円に勤続年数を掛けて求めます。
勤続10年なら40万円×10年で、400万円です。退職金が400万円までなら、原則として所得税も住民税もかかりません。
勤続年数の1年未満の端数は、1年に切り上げます。10年2か月なら11年として数え、控除額は440万円です。端数の扱い一つで、控除が40万円変わります。
控除額が80万円に満たない場合は、80万円が控除額です。勤続2年以下でも、80万円までは税金がかかりません。
「原則」と付けた背景には、例外があります。障害者になったことが直接の原因で退職した場合は、控除額に100万円が加算されます。役員の退職金や勤続5年以下の退職金には、別の計算ルールが適用される点にも注意が必要です。
勤続20年:退職金800万円までなら原則非課税
勤続20年の控除額は、40万円×20年の800万円です。退職金が800万円までなら、原則として税金はかかりません。
勤続20年は、計算式が切り替わる境目でもあります。20年を超えた年数については、1年につき70万円が上乗せされます。20年までは1年あたり40万円、20年超は1年あたり70万円と、増え方が速くなります。
勤続21年の控除額は、800万円に70万円を足した870万円です。差は70万円です。
20年を超えているか。まず、ここを確かめてください。
超えていれば、次の勤続35年と同じ式で計算します。2026年10月時点の国税庁の記載(令和8年4月1日現在)では、上記の式が使われています。
勤続35年:退職金1,850万円までなら原則非課税
勤続35年の控除額は、800万円に70万円×15年の1,050万円を足した1,850万円です。退職金が1,850万円までなら、原則として税金はかかりません。
退職金の見込み額が1,800万円なら、控除額を50万円下回ります。課税される金額はゼロで、所得税も住民税も、計算上は0円です。
勤続年数ごとの控除額を、表にまとめました。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 10年 | 400万円 |
| 20年 | 800万円 |
| 25年 | 1,150万円 |
| 30年 | 1,500万円 |
| 35年 | 1,850万円 |
| 38年 | 2,060万円 |
出典:国税庁 No.1420を基に計算(2026年10月時点)
見落としやすい点があります。非課税の範囲に収まっていても、「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に出していないと、退職金から一律20.42%が源泉徴収されます。
1,800万円なら367万5,600円が、一度引かれてしまいます。控除内に収まる人ほど、この書類が効きます。
退職金にかかる税金の計算方法
退職金に税金がかかるかどうかは、3つの手順で判定できます。控除額を出し、課税される金額を出し、税額を出す流れです。自分の数字を当てはめながら読み進めてください。
手順は、次の3ステップです。
- STEP1:勤続年数から退職所得控除額を計算する
- STEP2:退職金から控除額を差し引き課税退職所得金額を計算する
- STEP3:所得税・復興特別所得税・住民税を計算する
それぞれ、計算式と具体例で確認します。
STEP1:勤続年数から退職所得控除額を計算する
最初の手順は、控除額を出すことです。勤続年数は入社日から退職日までの期間で数え、1年未満の端数は切り上げます。
控除額の式は2本あります。
- 勤続20年以下:40万円×勤続年数(80万円未満なら80万円)
- 勤続20年超:800万円+70万円×(勤続年数−20年)
障害者になったことが直接の原因で退職した場合は、上記に100万円を加算します。
前年以前に退職金を受け取っていたり、同じ年に2か所以上から受け取ったりすると、控除額の計算が変わります。勤続期間が重なる部分は、控除を二重に使えないからです。詳しくは後半で触れます。
STEP2:退職金から控除額を差し引き課税退職所得金額を計算する
次に、退職金から控除額を引き、残りを2分の1にします。この金額が課税退職所得金額で、税率を掛ける対象です。
式は「(収入金額−退職所得控除額)×1/2」です。収入金額は、源泉徴収される前の額面で見ます。単純です。
仮に勤続35年で退職金が2,300万円なら、2,300万円−1,850万円で450万円。その半分の225万円が課税退職所得金額です。退職金が控除額以下なら、この金額はゼロです。
2分の1を使えないケースもあります。役員として勤めた期間が5年以下の人の退職金は、2分の1になりません。
役員以外でも、勤続5年以下の場合は、控除後の金額のうち300万円を超える部分が2分の1の対象外です。長く勤めた会社員は、当てはまりません。
退職所得は、給与などとは分けて税額を計算する分離課税です。他の所得が多くても、退職金の税率は上がりません。安心してください。
STEP3:所得税・復興特別所得税・住民税を計算する
課税退職所得金額が出たら、税率を当てはめます。所得税は、課税される金額に応じて5%から45%まで7段階の税率があります。
| 課税退職所得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 0円 |
| 195万円超 330万円以下 | 10% | 9万7,500円 |
| 330万円超 695万円以下 | 20% | 42万7,500円 |
| 695万円超 900万円以下 | 23% | 63万6,000円 |
| 900万円超 1,800万円以下 | 33% | 153万6,000円 |
| 1,800万円超 4,000万円以下 | 40% | 279万6,000円 |
| 4,000万円超 | 45% | 479万6,000円 |
出典:国税庁 No.2260(令和8年4月1日現在)
所得税額には復興特別所得税として2.1%が加わり、合計は所得税額の102.1%です。住民税は、課税退職所得金額に10%を掛けて求め、内訳は都道府県民税4%と市区町村民税6%です。
勤続35年のケースで、退職金ごとの税額を計算しました。
| 退職金 | 課税退職所得金額 | 所得税+復興特別所得税 | 住民税 | 税額合計 | 手取り |
|---|---|---|---|---|---|
| 1,800万円 | 0円 | 0円 | 0円 | 0円 | 1,800万円 |
| 2,000万円 | 75万円 | 約3.8万円 | 7.5万円 | 約11.3万円 | 約1,988.7万円 |
| 2,300万円 | 225万円 | 約13.0万円 | 22.5万円 | 約35.5万円 | 約2,264.5万円 |
| 3,000万円 | 575万円 | 約73.8万円 | 57.5万円 | 約131.3万円 | 約2,868.7万円 |
出典:国税庁 No.1420・No.2260の式に基づく概算(2026年10月時点)
3,000万円でも、税額は約131万円で、額面の4%強に収まります。「退職金は税金でかなり持っていかれる」という印象は、数字で見ると外れています。
退職金の税金を抑える3つの受け取り方
受け取り方は、一括の一時金、年金形式の分割、その併用の3通りです。どれを選べるかは会社の制度で決まるので、まず規程を確認します。
選択肢は、次の3つです。
- 退職金を一時金として一括で受け取る
- 退職金を企業年金として分割で受け取る
- 退職金を一時金と企業年金に分けて受け取る
税金の違いを、それぞれ見ていきます。
退職金を一時金として一括で受け取る
一括で受け取ると、税法上は退職手当等にあたり、退職所得として課税されます。退職所得控除と2分の1の計算がそのまま使えるのが強みです。
控除額の範囲内なら税はゼロ。超えても、課税されるのは超過分の半分だけです。この優遇は大きく、年金形式には、ここまで有利な課税はありません。
中退共(中小企業退職金共済)の一時金払いも、同じく退職手当等として区分して課税されます。申告書を出していれば、確定申告も原則として不要です。会社が税額を計算して源泉徴収するため、手間がかかりません。
控除額に収まる人は、一括で受け取るのが、税の面で最も有利になりやすい方法です。勤続35年で退職金が1,800万円なら、一括で受け取れば税額は計算上0円です。
退職金を企業年金として分割で受け取る
年金形式で分割して受け取ると、税の区分は雑所得に分類されます。退職所得控除は使えません。
過去の勤務により会社から支払われる年金は、公的年金等に含まれます。受け取った年は、老齢年金などほかの公的年金と合計して、公的年金等控除を差し引いたうえで課税されます。
公的年金等控除の最低額は、65歳未満と65歳以上で異なる点に注意が必要です。年金の収入が控除の範囲に収まれば、雑所得はゼロです。ただし、公的年金を受け取り始めると企業年金と合算され、控除の枠を超えやすくなります。
分割には、収入が長く続く安心感があります。反面、税の負担は一時金より重くなりやすい点に注意が必要です。自分の退職金と年金額で試算するまでは、決めないほうが安全です。
退職金を一時金と企業年金に分けて受け取る
併用すると、一時金の部分は退職所得、年金の部分は雑所得として扱われます。
考え方は単純で、一時金を退職所得控除の範囲に収め、超える部分を年金にします。控除内の一時金には税がかからず、年金部分には公的年金等控除が使えます。
仮に勤続35年で退職金が2,300万円なら、1,850万円を一時金、450万円を年金にする案が考えられます。一括なら課税退職所得金額は225万円ですが、この案なら一時金部分の課税はゼロです。
併用を選べるかどうかは、会社の制度によります。人事・総務への確認が先決です。
中退共には、退職時に60歳以上であることなどを条件に併用払いがあります。5年払いで退職金100万円以上など、金額の条件も決まっています。自分の退職金が1,800万円で控除内に収まるなら、併用する理由はほとんどありません。
退職金を複数受け取る場合の税金の注意点
会社の退職金に加えて、iDeCoや中退共、小規模企業共済から受け取る人もいます。受け取る時期が近いと、退職所得控除を二重に使えず、税負担が増えることがあります。
組み合わせは、次の3つです。
- 会社の退職金とiDeCoを受け取る場合
- 会社の退職金と中退共を受け取る場合
- 会社の退職金と小規模企業共済を受け取る場合
それぞれ、注意点が異なります。
会社の退職金とiDeCoを受け取る場合
iDeCo(個人型確定拠出年金)を一時金で受け取った場合、その金額は退職所得です。会社の退職金と受け取る時期が近いと、勤続期間が重なる部分の控除が調整されます。調整の対象になる期間は、受け取る順番で異なります。
| 受け取る順番 | 調整の対象になる期間 |
|---|---|
| 先に会社の退職金、のちにiDeCo | iDeCoを受け取る年の前年以前19年内に受けた退職金 |
| 先にiDeCo、のちに会社の退職金 | 前年以前9年内に受けたiDeCo(2026年1月1日以後に受けた分) |
出典:国税庁 No.2735(令和8年4月1日現在)
後者は、2026年の改正で4年から9年に延びました。以前の通称は「5年ルール」です。間隔を空ける期間が、長くなったわけです。
同じ年に両方を受け取る場合は、勤続期間を通算して計算します。受け取る年を数年ずらすと、それぞれに控除を使える場合があります。自分の受け取り時期の組み合わせで税額がどう変わるかは、会社の人事・総務か税務署に確認してください。
会社の退職金と中退共を受け取る場合
中退共の退職金も、受け取り方で税の区分が決まります。一時金なら退職手当等、分割払いなら雑所得です。
分割払いは、5年払い(年4回・全20回)と10年払い(年4回・全40回)から選びます。退職時に60歳以上であることが条件です。
退職所得控除の計算に使う勤続年数は、掛金が納付された期間です。会社の勤続年数とは、必ずしも一致しません。
会社の退職金も同じ年に受け取る場合は、勤続期間を通算して控除額を計算します。二重取りはできません。中小企業向けの制度なので、自分の会社が加入しているかは、退職金規程で確認できます。
会社の退職金と小規模企業共済を受け取る場合
小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の役員が入る退職金の制度です。
受け取り方で税の区分が変わります。一括で受け取れば退職所得、分割なら公的年金等の雑所得です。一括と分割の併用なら、一括分は退職所得、分割分は雑所得です。
分割で受け取るには条件があります。共済金AまたはBで、請求の原因が加入者の死亡ではなく、請求の時点で60歳以上であり、共済金が300万円以上であることです。
「小規模企業共済の退職金は税金がかからないのか」という疑問には、こう答えられます。一括で受け取り、退職所得控除の範囲に収まれば、課税されません。
控除を超えれば課税されます。分割にした場合は、雑所得としての課税です。
65歳未満で任意解約をした場合などは、一時所得として扱われます。受け取る前に、中小機構へ確認しておきましょう。
退職金の税金で損をしないために必要な手続き
非課税の範囲に収まる人も、税金を払う人も、手続きの有無で手取りが変わります。必要なのは、受け取る前の申告書と、受け取った後の源泉徴収票の確認です。
手続きは、次の3つです。
- 「退職所得の受給に関する申告書」を提出する
- 「退職所得の源泉徴収票」で税額を確認する
- 必要に応じて確定申告で税金の還付を受ける
受け取る前から受け取った後まで、時系列に沿って確認します。
「退職所得の受給に関する申告書」を提出する
この申告書は、退職金を受け取るまでに勤務先へ出す書類です。出していれば、会社が退職所得控除と2分の1を反映して税額を計算します。提出していれば、原則として確定申告は不要です。
出していない場合は、退職金の支払額に一律20.42%が源泉徴収されます。800万円なら163万3,600円、1,800万円なら367万5,600円です。控除内に収まる人でも、この金額が引かれます。
引かれた分は、確定申告をすれば精算できます。ただし、手続きに手間がかかるのが難点です。戻るまでの間は、老後資金として使えません。
医療費控除や寄附金控除で確定申告をする場合は、退職所得も合わせて記載します。申告書の提出先は勤務先です。自分の分の用紙が手元にあるか、早めに人事・総務へ確認しておきましょう。
「退職所得の源泉徴収票」で税額を確認する
退職金を受け取ると、勤務先から「退職所得の源泉徴収票」が交付されます。確認する項目は3つです。支払金額、源泉徴収された税額、勤続年数です。
退職金が控除内に収まるのに、源泉徴収税額が引かれていれば、申告書が反映されていない可能性が高くなります。勤務先に問い合わせるか、確定申告で精算してください。
勤続年数が自分の認識と合っているかも見ておきます。1年のずれは、控除額で40万円か70万円の差です。
確定申告をするときは、この源泉徴収票が必要です。受け取ったら、なくさないよう保管してください。
必要に応じて確定申告で税金の還付を受ける
申告書を出さずに20.42%が源泉徴収された場合は、確定申告で精算し、払いすぎた分の還付を受けます。退職所得を再計算した税額より、引かれた税額が多ければ、差額が戻ります。
還付の申告は、対象の年の翌年1月1日から5年間できます。2025年分なら、2030年12月31日までです。
申告には、退職所得の源泉徴収票が要ります。確定申告書は、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」で作成できます。
最初から申告書を出しておけば、こうした手間は生じません。退職が決まったら、書類の有無を真っ先に確認してください。
まとめ|退職金に税金がかからない金額を確認して有利な受け取り方を選ぼう
退職金に税金がかからない上限は、勤続年数で決まる退職所得控除額です。勤続10年で400万円、20年で800万円、35年で1,850万円。退職金がこの額以下なら、原則として所得税も住民税もかかりません。
超えた場合も、課税されるのは超えた部分の半分だけです。勤続35年で2,300万円を受け取っても、税額は約35.5万円にとどまります。
受け取り方では、控除と2分の1が使える一括の一時金が、税の面で有利になりやすい方法です。年金や併用は、税の負担を試算してから決めてください。iDeCoや中退共を受け取る人は、時期を確認します。
手続きでは、退職所得の受給に関する申告書が最優先です。出し忘れると、控除内の人でも20.42%が引かれます。
進める順番は3つ。勤続年数から控除額を出し、見込み額と比べ、人事・総務に申告書の用紙と受け取り方の選択肢を聞きます。これで手取りの見通しが立ちます。
