「医療保険は本当に必要なのか」「入らなくて、あとで後悔しないか」。このような疑問を抱えていませんか。
答えを先に書きます。医療保険に入らない選択は、貯蓄と収入しだいで成り立ちます。
入院の自己負担は平均18.7万円で、会社員なら高額療養費と傷病手当金も使えます。ただし、貯蓄が少ない人や養う家族がいる人は、医療費よりも休業中の収入減で後悔しやすいのが実情です。本記事では、以下の内容を解説します。
- 医療保険に入らず後悔する3つのケース
- 医療保険がなくても使える公的保障
- 後悔しやすい人の特徴
- 加入を迷ったときの4つの判断ポイント
自分の貯蓄と収入に当てはめながら読んでください。
医療保険に入らないで後悔する3つのケース
後悔の中身は、医療費そのものより、そのあとの家計にあります。3つに分けて見ていきます。
後悔するケースは、次の3つです。
- 入院・手術で想定以上の自己負担が発生した
- 長期入院によって収入が減少し、生活費が不足した
- 病気になってから医療保険に加入しようとしても入れなかった
自己負担、収入減、加入できない場合の順に確かめます。
入院・手術で想定以上の自己負担が発生した
入院の自己負担は、平均で見れば想定ほど大きくなりません。生命保険文化センターの2025年度調査では、直近の入院の自己負担は平均18.7万円で、約7割が20万円未満でした。
この額は高額療養費を使った後の金額で、食事代、差額ベッド代、交通費、日用品費まで含みます。ただし1日あたりに直すと平均2.43万円で、入院が長引けば膨らみます。
後悔を生むのは、保険のきかない費用が積み上がったときです。差額ベッド代や食事代、先進医療の技術料は、治療費を抑える制度の外にあります。約7割が20万円未満ということは、約3割はそれを超えているわけです。
平均だけを見て安心すると、この3割に入った瞬間に想定が崩れます。
出典:生命保険文化センター「生活保障に関する調査」2025(令和7)年度
長期入院によって収入が減少し、生活費が不足した
後悔の本質は、医療費より収入が減ることです。会社員は、有給を使い切ると給与が止まり、傷病手当金に切り替わります。傷病手当金は標準報酬日額の約3分の2で、連続3日の待期を経た4日目から支給されます。
休業中の収入は、通常の給与の3分の2程度まで下がります。しかも、休業が始まってから振り込まれるまでには、申請の手続きが挟まります。
一方、家賃やローン、保育料のような固定費は一定です。収入が減っても支出は減らず、貯蓄から穴埋めする状態が続きます。
入院が短くても、復職までの療養が長引く例は少なくありません。医療費の自己負担だけで備えを考えると、ここを見落とします。
有給の残り日数が少ないほど、給与が止まる時期は早く訪れます。勤務先に私傷病休暇や休職の制度があるかも、確かめておきましょう。
出典:協会けんぽ「傷病手当金」(2026年11月時点)
病気になってから医療保険に加入しようとしても入れなかった
医療保険は、健康なうちでないと選択肢が狭まる商品です。通常の医療保険は、加入時に健康状態の告知が必要です。持病や治療歴があると、断られたり、保険料の割増や特定部位の不担保といった条件がついたりする場合があります。
健康状態に不安がある人向けに、告知項目を3〜5項目程度に絞った引受基準緩和型の医療保険もあります。告知項目の例は、最近3か月以内に入院・手術を勧められたか、過去2年以内に入院・手術をしたか、過去5年以内にがんなどで治療を受けたか、の3つです。
ただし通常の医療保険より保険料は割高で、契約後1年間は給付金が半額になる商品もあります。契約前に医師から勧められていた入院・手術は、対象外です。
いま健康な人には実感しにくい話です。告知の対象になる事柄が増えるほど、選べる商品は狭まります。入るかどうかは、健康なうちに決めておく手があります。
出典:生命保険文化センター「健康状態に不安がある人でも、契約できる医療保険とは?」。告知項目・保険料は保険会社ごとに異なります。
医療保険に入らなくても大丈夫?利用できる公的保障
「入らなくても大丈夫」と言われる根拠は、3つの公的制度です。何がどこまでカバーされるのか、数字で確かめます。
使える公的保障は、次の3つです。
- 公的医療保険による医療費の自己負担軽減
- 高額療養費制度による医療費の負担軽減
- 傷病手当金による休業中の収入保障
窓口負担、高額療養費、傷病手当金の順に見ていきます。
公的医療保険による医療費の自己負担軽減
公的医療保険に入っていれば、医療費の窓口負担は3割で済みます。義務教育就学前の子どもは2割です。医療費が100万円かかっても、窓口で払うのはまず30万円で、ここから高額療養費でさらに下がります。
対象になるのは、診察・検査・手術・入院料・薬といった保険診療です。一方、差額ベッド代は「選定療養」に分類され、保険の対象外です。先進医療の技術料も保険がきかず、全額を自分で払います。
子どもの医療費は、さらに軽くなります。こども家庭庁の調査では、全ての都道府県と市区町村が、こどもの医療費の助成を実施しています(2024年4月1日時点)。
対象年齢や自己負担は自治体で違うため、住んでいる自治体の制度を確認しておきましょう。子どもの医療費の面では、リスクは小さく抑えられています。
出典:厚生労働省「医療保険制度の概要」、こども家庭庁「令和6年度こどもに係る医療費の助成についての調査」
高額療養費制度による医療費の負担軽減
高額療養費は、1か月の自己負担が上限額を超えた分が戻る制度です。上限は年収で決まり、2026年8月の診療分から見直されました。ここでは年収約370万〜770万円の区分で見ます。
| 項目 | 〜2026年7月診療分 | 2026年8月診療分〜 |
|---|---|---|
| 月額上限 | 80,100円+(総医療費−267,000円)×1% | 85,800円+(総医療費−286,000円)×1% |
| 多数回該当(4回目〜) | 44,400円 | 44,400円(据え置き) |
| 年間上限 | なし | 53万円 |
(引用:厚生労働省「(参考)高額療養費制度の見直しについて」。2026年11月時点)
総医療費が100万円なら、自己負担は約9.3万円までに収まります。多数回該当は、直近12か月に3回以上支給を受けると、4回目からが対象です。
健保組合なら、独自の付加給付で、さらに自己負担が下がる場合があります。協会けんぽにはありません。
自分の健保の給付制度ページか、人事・総務で確かめておきましょう。医療費が高額になると事前にわかっている場合は、マイナ保険証を使うか、限度額適用認定証を窓口に出す方法もあります。ただし対象は保険診療の自己負担分だけで、差額ベッド代・食事代・先進医療の技術料は含まれません。
出典:厚生労働省「(参考)高額療養費制度の見直しについて」、厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」、けんぽれん「付加給付」。施行直後の制度のため、実務運用は加入先に確認することを推奨します。
傷病手当金による休業中の収入保障
傷病手当金は、会社員が病気やケガで休み、給与が出ないときの所得保障です。条件は4つあります。
業務外の病気・ケガであること、療養のために働けないこと、連続3日の待期を含めて4日以上休むこと、給与が支払われないことです。給与が出ていても、傷病手当金より少なければ差額が支給されます。
支給は4日目からで、期間は支給開始日から通算1年6か月までです。1日の額は、直近12か月の標準報酬月額の平均を30で割り、さらに3分の2を掛けて求めます。標準報酬月額が36万円なら日額8,000円で、30日休むと待期を除く27日分、21万6,000円が目安です(筆者試算)。
対象は健康保険に加入している被保険者本人で、任意継続の期間中に生じた病気・ケガは対象外です。標準報酬月額は額面ベースなので、手取りとの差も頭に入れておきましょう。
出典:協会けんぽ「傷病手当金」(2026年11月時点)
医療保険に入らないと後悔しやすい人の特徴
後悔しやすいかどうかは、職業よりも「払えるか」で決まります。会社員にも当てはまる条件から、順に挙げます。
当てはまりやすい人は、次の3タイプです。
- 医療費に充てられる貯蓄が少ない人
- 扶養家族がいて生活費の負担が大きい人
- 自営業・フリーランスなど休業中の所得保障が手薄な人
貯蓄、家族、働き方の順に挙げます。
医療費に充てられる貯蓄が少ない人
後悔しやすさを分けるのは、自己負担と収入減を貯蓄で払えるかどうかです。入院の自己負担は平均18.7万円ですが、約3割は20万円を超えます。ここに休業中の収入減が重なると、必要な現金は医療費だけでは決まりません。
貯蓄の多寡が効くのは、入院費そのものよりも、休業が数か月続いたときです。ローンや教育費の出費が続く家庭は、数十万円の出費でも家計が崩れます。会社員でも、傷病手当金は収入の約3分の2で、固定費は変わりません。
後悔しにくいのは、その逆の人です。入院費も収入の穴も貯蓄で賄える人は、医療保険の優先度が下がります。保険料を払うより、その分を貯蓄に回す選択が成り立ちます。
「十分」の目安は一律には決まりません。自分の数字で出す方法は、このあとの判断ポイントで示します。
出典:生命保険文化センター「生活保障に関する調査」2025(令和7)年度、協会けんぽ「傷病手当金」
扶養家族がいて生活費の負担が大きい人
扶養家族がいると、世帯主の収入が止まる影響は家族全体に及びます。世帯主が休業すると、収入は傷病手当金の約3分の2に下がります。
専業主婦の妻と子がいる世帯は、ほかに収入源がないため、減った分は貯蓄で補うしかありません。養う人数が多いほど、打撃は深刻です。
妻や子の入院にも備えが要ります。妻が入院すれば、世帯主が付き添い、家事や育児を外に頼む費用がかかる場合があります。
ただし子どもの医療費は自治体の助成で窓口負担が小さく、リスクの中心は医療費ではありません。世帯の収入と、家事・育児の担い手が欠けることです。
扶養家族がいる世帯では、医療保険より先に考えたい備えもあります。死亡や長期の就業不能への備えです。本記事の主軸ではないので触れるだけにとどめますが、優先順位は一度考えておきたいところです。
出典:協会けんぽ「傷病手当金」、こども家庭庁「令和6年度こどもに係る医療費の助成についての調査」
自営業・フリーランスなど休業中の所得保障が手薄な人
自営業やフリーランスは、休業中の公的な収入保障が手薄です。会社員が入る健康保険には傷病手当金がありますが、国民健康保険では法律上の「任意給付」にとどまります。保険者が条例や規約で定めた場合にだけ支給されるため、ない地域や組合も多いのが実情です。
入院や療養で働けない間は、売上がそのまま減ります。国保組合に加入していれば、組合の規約による給付がある場合もあり、加入先で差が出る点に注意が必要です。
医療費の面では、高額療養費など、同じ公的医療保険の仕組みが使えます。差が出るのは、休業中の収入の保障です。
同じ入院でも、働き方で家計への打撃は変わります。一人で仕事を回していると、休業が長引くほど事業の維持も難しくなります。
会社員でも、他人事ではありません。転職や独立、退職後に国保へ移れば、この条件がそのまま当てはまります。いまの保障が、ずっと続くとは限りません。
出典:国民健康保険法第58条(e-Gov法令検索)、協会けんぽ「傷病手当金」。国保の傷病手当金の有無は、保険者ごとに条例・規約で異なります。
医療保険に入るべきか迷ったときの4つの判断ポイント
加入するかどうかは、自分の数字で決まります。自己負担、入院中の出費、休業中の家計、不足額と保険料の順に確かめましょう。
判断ポイントは、次の4つです。
- 入院・手術にかかる自己負担額をシミュレーションする
- 医療費以外に発生する入院中の出費を見積もる
- 貯蓄と休業中の収入で生活費をまかなえるか確認する
- 不足する保障と保険料を比較して加入の必要性を判断する
自分の年収や貯蓄に置き換えながら読み進めてください。
入院・手術にかかる自己負担額をシミュレーションする
自己負担は、手順を踏めば自分で試算できます。年収区分を確かめ、総医療費を仮定し、高額療養費の上限を計算して、食事代と差額ベッド代を足します。年収約370万〜770万円の区分で、14日入院・総医療費100万円と仮定して試算しました。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 高額療養費適用後の自己負担 | 92,940円(85,800円+(100万円−28.6万円)×1%) |
| 食事代(550円×3食×14日) | 23,100円 |
| 個室の差額ベッド代(1日8,000円と仮定) | 112,000円 |
| 合計 | 個室なし約11.6万円/個室あり約22.8万円 |
(筆者試算。入院日数・医療費は仮定値で、平均ではありません)
条件を変えれば、金額は大きく動きます。高額療養費の上限は月ごとに計算されるため、月をまたぐ入院は、日数の割り振りで負担が変わります。自分の年収区分、入院日数、総医療費を入れ替えて、一度計算してみましょう。
出典:厚生労働省「(参考)高額療養費制度の見直しについて」、協会けんぽ「入院時食事療養費」の案内(2026年11月時点)
医療費以外に発生する入院中の出費を見積もる
高額療養費でカバーされない出費を、先に洗い出しておきます。
| 費用 | 目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 食事代 | 1食550円(2026年6月〜) | 1日3食で1,650円 |
| 差額ベッド代 | 1人室の平均は1日8千円台 | 病院が設定。2人室は平均3千円前後(令和6年8月時点の推計) |
| 先進医療の技術料 | 全額自己負担 | 公的医療保険の対象外。額は技術ごとに異なる |
| 交通費・日用品・衣類 | 個人差が大きい | 家族の見舞いの交通費も含む |
差額ベッド代は、患者の選択で払う費用です。同意書に署名する前に、料金と個室に入る理由を確かめたいところです。
先進医療は、2023年7月からの1年間で、陽子線治療が827件、重粒子線治療が442件でした。先進医療を受けた患者全体でも約17.7万人にとどまります。
起きる確率は低いものの、起きたときは技術料が全額自己負担になります。医療保険がなくても、先進医療特約や共済を、選択肢として知っておく価値があります。
出典:協会けんぽ「入院時食事療養費」の案内、厚生労働省「主な選定療養に係る報告状況」、厚生労働省「先進医療の実績報告(令和6年度)」
貯蓄と休業中の収入で生活費をまかなえるか確認する
最後に確認したいのは、休業中に家計が回るかです。手順は3つあります。
- 休業中の収入を出す(傷病手当金の目安は標準報酬日額の約3分の2)。
- 毎月の固定費と生活費を出し、収入との差(赤字)を求める。
- その赤字を、貯蓄で何か月埋められるかを数える。
標準報酬月額が36万円なら、傷病手当金は月約24万円です。支出が月30万円なら、月約6万円の赤字が出ます。支給の上限は通算1年6か月なので、赤字は最大で約108万円です(筆者試算)。
この108万円を貯蓄で出せるかが、分かれ目です。有給や賞与、社会保険料の差は含めていない単純計算にとどまります。
数字が出たら、家族と持ち寄って話しましょう。確認する項目は5つあります。
- 勤務先の健保は協会けんぽか健保組合か。付加給付はあるか
- 有給と休職制度の日数
- 貯蓄は生活費の何か月分か
- 休業が3か月・6か月続いたときの赤字
- 妻や子が入院したときの、家事・育児の担い手
出典:協会けんぽ「傷病手当金」
不足する保障と保険料を比較して加入の必要性を判断する
仕上げに、貯蓄で賄えない不足額と、保険料を並べます。ここまでに出した自己負担と収入の穴の合計から、使える貯蓄を引いた残りが不足額です。不足額が出ない人は、入らない答えで問題ありません。
不足額が小さければ、保険料を払うより貯蓄で備える方が筋が通ります。不足額が大きければ、医療保険のほか、就業不能保障保険や共済も候補です。
就業不能保障保険は、所定の就業不能状態が続いたときに給付金が出る保険で、支払対象外期間が60日程度のタイプが多くあります。給付条件は商品ごとに違います。
保険料は、年齢が上がるほど高くなる傾向です。同じ保障でも、入る年齢で払う総額は変わります。
入るか入らないかの二択にしないでください。選ぶのは、保障の種類と金額です。
出典:生命保険文化センター「就業不能保障保険」。保険料・共済の掛金は各社・各共済の公式資料で最新を確認してください。
まとめ|医療保険に入らない後悔を防ぐには公的保障と貯蓄を踏まえて判断しよう
医療保険に入らなくても、公的保障で医療費の自己負担は抑えられます。入院の自己負担は平均18.7万円で、年収約370万〜770万円の区分なら、医療費100万円でも高額療養費で約9.3万円までです。
後悔につながるのは、保険のきかない出費と、休業中の収入減が重なったときです。貯蓄が少ない人、養う家族がいる人、休業中の収入保障が薄い人ほど、その傾向が強まります。
判断は、自己負担、入院中の出費、休業中の家計、不足額と保険料の順に、自分の数字で行います。まず、勤務先の健保の種類と、貯蓄が生活費の何か月分かを確かめましょう。そのうえで、家族と数字を持ち寄って話せば、入る・入らないの理由を説明できます。
